代表挨拶

 海洋プラスチックゴミは20世紀後半から徐々に問題視され始め、昨今のYouTubeなどのメディアの発展と相まって一気に深刻度が認知されるようになりました。現在、人類が解決すべき課題の中の一つとして誰もが知る事態となっています。そのような中、本国でも問題解決のためのプロジェクトが回り始めています。その一つが内閣府が主導するムーンショット事業であり、私は8つの公的機関とチームを組み「光スイッチ型海洋分解性の可食プラスチックの開発研究」と題する提案を行い2020年8月に採択されました。この提案のポイントとなるのは、光刺激と水の作用により加水分解が加速されるナイロンの開発です。その原料はイタコン酸という生体分子でありナイロン化された状態では環状アミドが主鎖に組み込まれた特別な構造のナイロンとなります。この環構造が開く時にナイロンの物性が大きく変化し、一気にプラスチックの崩壊が誘起され、その後分解が進行するというスイッチ型分解性を示すナイロンです。「プラスチックの未来を考える会」を推し進めることはこのムーンショット事業における課題の一つでもあり、材料開発とパラレルに進めるべきものと考えています。この会を通じて、海洋プラスチックゴミ問題の本質を読み解き、関連業界の多くの企業人、有識者、研究者らと腹を割って、問題解決の指針を探り解決策を導きたいと考えています。そのためには、各分野・領域の現場やニーズをお互いに知り、どのような融合研究を進めるべきかを相互に議論したいと思います。

 さて、海洋プラスチックゴミ問題の解決手段の一つとして「脱プラ」という用語が飛び交うようになり、プラスチック業界への風当たりが日々強まっています。私は、最近テレビやラジオに出ることが幾度かあり、その中で「脱プラ」では市場の大きい樹脂業界がダメージを受けるため社会・経済を衰退させる可能性があるだけでなく、軽量材料の代表であるプラスチックを減らすと軽量化社会構築が難しくなると訴えてきました。プラスチックこそSDGs貢献に必須の材料であり、「脱プラ」ではなく「脱プラごみ」でなければならないと常に主張してきました。

 プラスチックの中でもポリエチレンのように安価なものは、貧困率を問わず世界中で安くて便利な材料として活用でき、生活レベルを上げることにつながる側面があります。一方で廃棄物管理に関する教育が間に合わず、ポイ捨ておよび不適切管理の問題を誘発しています。その中で軽いものは海洋に浮かびよく目立つ上、環境になじまない装飾が人々に嫌悪感を与えます。実際に、アジア太平洋地域において観光業のプラスチックごみによる年間の損失は6.2億ドルと報告されています(APEC Marine Resources Conservation Working Group 報告 (2009))。加えて海洋ごみの影響により、魚類、海鳥、海洋哺乳動物、ウミガメなど約700種もの生物が死傷しており、このうち92%がポリ袋の誤飲・摂取などによる とされています(S.C. Gall, et al. “The impact of debris on marine life.” Mar Pollut Bull. 92, 170 (2015))。ここまでの悪影響を生態系に及ぼせば、心情的な問題を超え、人類の存続にも何らかの影響を及ぼしかねません。この事態となれば、プラスチックが目の敵にされるのも当然かもしれません。しかし、人類において真に必要な材料である以上、海洋分解性プラスチックは未来社会においても必須の材料です。ただ、その開発にはコストとパフォーマンスとのバランスを取るのが極めて難しいです。さらに社会実装に向けて一つ一つの課題をクリアする度ごとに目に見えない課題が突然現れます。「プラスチックの未来を考える会」に期待するのは社会実装の経験が豊富な企業の方々との情報交換であり、これによりムーンショット事業で開発する材料の社会実装の後押しがなされればと願っています。

最後に、プラスチックの危機ともいえるこの時代に、膝を突き合わせて話し合う場を作り上げてくださった関係者の方々に深謝するとともに、会員の方々のお知恵を拝借しながらサスティナブルな軽量材料としての未来志向型プラスチックを具現化し諸問題の解決に導きたいとの決意を表明し、ご挨拶とかえさせて頂きます。

 

 

 

 

 

 

 

プラスチックの未来を考える会 代表 金子 達雄

北陸先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 環境・エネルギー領域 領域長/教授
ムーンショット型研究開発事業:地球環境の再生に向けた持続可能な資源循環を実現/光スイッチ型海洋生分解性の可食プラスチックの開発研究 プロジェクトマネジャー